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これはベンチ。ごぞんじの座るためのアレです。その名も「シェアベンチ」。朝市とオープンデパートではこのベンチを使っています。
ベンチというのは長イスのことですが、じつはイスとはぜんぜんちがいます。なにがって、圧倒的にゆるいんですね。
そもそも何人がけかも決まっていません。2人でも4人でも座れる。何人で座るべきかなのも明示されていませんから「ここどうぞ。詰めますから」なんてやりとりが自然に生まれます。
基本的な用途はイスとはいえ構造的にはたんなる長くて平らな台でしかありませんから、用途すら決まっていません。夫婦で談笑してもいいし、恋人がくっついてもいい、ルンペンのおっちゃんが寝転がっててもいい。赤ちゃんのおしめ交換にだって使えるのに弁当を広げることもできますね。
それいじょうに、ベンチがたくさん並んでいる場所は「ま、お好きにくつろいでってください」というゆるい雰囲気につつまれ、コミュニケーションが生まれるんですね。
朝市でもベンチをならべるとゆずりあいと談笑が自然にうまれました。「世界でいちばん見知らぬどうしで話をしない国」といわれ、電車の座席を奪い合っているおなじ日本人とはおもえない空間をつくる力が、この単純なベンチにはあるんです。
こういう物理的な装置って本当にだいじだよな──と思っていましたら、先だってこんな記事を見つけてほんとに驚きました。同じようなことを考えている人っているもんですね。
「7000以上のベンチによって繁栄した街セントピーターズバーグ」(大西正紀)
→http://bit.ly/7000benches
アメリカのフロリダ州タンパの近くにあるセントピーターズバーグという街の話です。この街はむかし街のいたるところに7000ものベンチがあり、そのおかげで街がたいそうにぎわったのだそうです。
個人的にツボだったのはベンチにすわっている昔の人たちの距離の近さですね。すごいツメツメで、おそらく他人同士と思われる人たちも談笑している。こ・れ・だ。これですよ。すでに先駆者がいたのです。
シェアベンチは組み立て式になっているので、平らして収納することができます。ネジやボルトは使いません。合板式なので頑丈で、上で大人が飛び跳ねてもびくともしません。どこからみてもスッキリした外見になるようデザインにも気を配っています。家庭や店舗はもちろん、クルマでの旅行に持っていってたのしんでください。
そういえばもう20年以上前になるでしょうか。もしかしたら国鉄がJRになってからのことかもしれません。駅のベンチがとつぜん手すりで仕切られるようになりました。若い人はそんな時代があったことすらしらないでしょうね。
なんともいえずイヤーな違和感を強烈に抱いたのでその原因がずっと気になっていたんですが、あれはすでにベンチではなかったのです。多人数用のイスがつながっているだけで、冷酷なまでの他人行儀と合理化のたまものです。
こんなふうになってしまった日本の風景を、ゆるくて開放的でなにげない交流にあふれたものに変えていきましょう。
シェアベンチがその一助になればさいわいです。
(岡本 篤)
【サイズ】 180センチ×29センチ、高さ44センチ
【重 さ】約8キロ